トゥッサン

フランスでは、11月1日はToussaintの祝日です。名前のとおり、すべて(tous)の聖人(saint)を祝う日です。フランスのカレンダーを見ると、毎日聖人の名前がついています。たとえば、10月31日はSaint Quentin、11月3日はSaint Hubertです。フランス人は聖人の名前を生まれた子どもにつけることが多いので、たとえばカンタン(Quentin)という名前の人は、自分の誕生日のほかに、自分の聖人名の日が10月31日にある、というわけです。私の夫も、自分の名前の聖人の日には、家族や親しい友達からメッセージが届きます。誕生日ではないので、プレゼントをもらったりすることはありませんが、「カレンダーを見たら、あなたの聖人の日だったけど、元気にしてる?」というくらいの意味合いのようです。

フランスに来てすぐのころ、聖人の名前を持たない私は、自分が排除されているような気分がして、フランスのこういう風習が苦手でした。ところが、時間が経つにつれて、かつて苦手と思っていたことすら忘れつつあります。聖人の名前を持つフランス人ばかりではないということが次第にわかってきたということとも関係するかも知れません。カトリックの家庭ばかりではありませんし、学生の名前を見ても聖人とは関係のない名前を持つ人や外国人もいます。

カレンダーを見ると、11月1日は聖人のところにToussaint、11月2日はdéfunts(死者)と記されています。11月2日は亡くなった人たちの日です。この日、家族のお墓参りをする人も多くいます。日本のお盆とちょっと似ています。

聖人といえば、ナントの教会で聖アントワーヌの像を見かけたとき、何か心をひくものがあり、以来教会へ行ってアントワーヌ像があると、四つ葉のクローバーを見つけたような感覚になります。ナント市内の教会には二つのアントワーヌ像がありますが、非常によく似ていて、作者が同じなのか同じ工房で作られたのではないかと思っています。ほかにも、コルマールの教会と、プーリガンの教会でアントワーヌ像を見つけました。腕に抱いた赤ん坊を見つめるやさしい表情と、ゆったりとした簡素な服装のたたずまいで、すぐにアントワーヌだとわかりました。「パドヴァのアントニオ」と呼ばれるそうですが、見たところは「アントニオ」というよりはフランス風の発音であるアントワーヌのほうがしっくりくる気がします。

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コルマールの教会の聖アントワーヌ。カメラを持っていなかったので、携帯電話で撮ったため、あまりはっきりと見えないのが残念。
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プリガンの教会の聖アントワーヌ
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ナントのサン・ニコラ(Saint Nicolas)教会の聖アントワーヌ
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ナントのノートル・ダム・ド・ボン・ポール(Notre-Dame de Bon Port)教会の聖アントワーヌ

アントワーヌが抱きかかえている子どもはイエス・キリスト。着ている僧服はフランシスカン(フランシスコ会)のもので、縄をベルトのようにしめています。赤ん坊とともに本を持っているものと持たないものとありますが、これは聖書のようです。また、ユリの花もアントワーヌを象徴する花のようです。私がこの聖人の像に強い印象をうけたのは、アントワーヌが学生のような若い青年であることと、子どもを大切そうに抱いている姿、服にたれる縄ひも、そして物静かだけれどどこか明るい表情という、私にとっては意外な組み合わせのオンパレードであるからでした。仏像のおだやかな表情に心が洗われたような感覚を受けるように、アントワーヌ像を眺めていると、ほっとしたような気持ちになるのです。

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