冬のお風呂

シャワーが基本のフランスでは、お湯を入れてお風呂に入ることはほとんどありません。一軒家でも浴槽を持たない家も少なくありません。夫の実家では、最近お風呂場の工事をして、古い浴槽を取り除き、最新式のシャワーをとりつけました。浴槽はほとんど使われていなかったので、これからも必要はないだろうとの考えのようです。私だったら最新式の浴槽をつけるのになと思いますが、そこは文化の違い。以前、エコロジストの選挙候補者が「環境を守るためお風呂には入らない」と発言しているのを読んで、とても驚いたことがあります。水を大量に消費するお風呂文化は、フランスでは無駄な贅沢のようにさえ思われているところがあるように感じます。

フランスで2005年から放送されているコメディドラマ「カムロット」(Kaamelott)という番組があります。アレクサンドル・アスチエ(Alexandre Astier, 1974生)が製作し、主役のロワ・アルチュール(アーサー王, roi Arthur)も演じているドタバタ歴史喜劇ですが、このアーサー王がローマに暮した経験を持ち、ローマ風の生活をしているという設定になっていて、王がお風呂に入っている場面がよく出てくるのです。他の騎士たちはお風呂とは無縁で、入り方もよくわからなかったりしますが、ローマで暮した王にとってはお風呂は大切な時間。日本人の私は、お風呂に入るロワ・アルチュールに大いなる共感を覚えてしまうのです。

うさぎ小屋ほどの小さなアパルトマンに暮す私と夫ですが、お風呂場には浴槽があります。特に浴槽のある物件を探して入居したわけではなかったので、今思うと幸運だったのだと思います。もっとも、フランスでは日本のように毎晩お風呂に入るというような習慣がないため、お湯の設備はお風呂にはきわめて不向きで、冬場などは、うっかりお風呂に大量のお湯を使ってしまうと、しばらくの間お湯がでなくなることもあります。そうとわかってはいても、寒いときのお風呂は体があたたまるので、冬になると入浴の機会が増えます。フランス人の夫も、日本の私の実家でお風呂を使って以来、大のお風呂好きに。今では率先してお風呂の準備をしています。

フランスのお風呂場は、日本のように洗い場がないので、服を脱いだら、そのまま湯船に直行します。また、私の住むアパルトマンの場合、ボタンひとつで適温が出るという夢のような仕組みは備わっていないので、自分でお湯加減を調節しながら入れなければなりません。お湯のタンクが空になれば、あとは水しか出ないので、台所で熱湯を準備して、後から足すこともあります。お湯が十分に出るときでも、浴槽をお湯で満タンにすることはありません。というのも、私の住むアパートでは水道代は共益費に含まれていて、個人で使った水を水道代として払うことがないのです。このため、我が家で水を大量に使うことで苦情が出てはと思い、半分くらいでお湯をとめることにしています。

フランス人の夫にとってお風呂は冷えた体をあたため、心身をリラックスさせるためのもの。お風呂の時間を最大限に楽しむため、お風呂場の電気はつけずに、ろうそくの灯りで入浴します。小さなキャンドルが放つ光はわずかなので、暗闇で入浴しているも同然ですが、夜寝る前に部屋を暗くすると何となく眠くなってくるのと同じで、光が少ないと、眠ったような静かな状態になります。とはいえ、ロウソクの火事が怖いので、お風呂が終わるとただちに消すようにしています。

お風呂に入るのは夕方。たいてい夕食の下準備をしておいて、お風呂のあとはパジャマとあたたかい部屋着(robe de chambre)を着て、テレビや映画を見ながら、のんびりと夕食を食べます。毎日はできませんが、時間に余裕のあるとき、そしてとても寒かった日の終わりにお風呂に入ると、ほっとします。

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